2017/09/01

書籍:あきない世傳金と銀(源流編)


 最近では、店の看板に傷をつける、という言葉の意味が実感としてよくわからない時代だと思います。
 一般の消費者においては、その店の旦那が妾を抱えていようが、賭け事に店の金をつぎ込んでいようが、あまり意識しないでしょう。
 何人かのスタッフを雇っているお店ですと、月々給料を払わないとならないので、資金ショートを迎えると、その前兆を見せることなく突然に閉店し、利用者の記憶からもあっさり消えてしまいがちです。

 しかしながら、さすがに、仕入先や金融機関はよく見ているなぁと思います。
 社長が商売以外のことに没頭し始めると、商売がおろそかになり、売上=資金を確保できなくなる。女性やばくちだけでなく、分不相応な贅沢(なぜと思うようなイベントやパーティーの開催)をしても、取引先の与信記録に残るようになっています。
 自分の信用が落ちていることを知らないのは、当の社長さんだけだったりします。

 て、本書では2つのテーマが扱われています。
 ひとつは、、学問をしたいながらも家庭の事情で大坂の呉服屋で女衆として奉公に出された9歳の女の子・幸やその周りの大人たちの心の葛藤を描いています。
 もうひとつは、幸と番頭さんの質疑応答を通して語られる流通業の意義と店の信用です。

 主人公の幸が9歳ながらにして番頭さんに「お客さんはなぜ問屋から買わずに小売商から買うのでしょうか」との質問をする場面があります。
 番頭は好例を挙げて、問屋や小売の役割を紹介しますが、さらに、もっと大きな観点で流通を説明した箇所が印象的でした。
 たまに悪さをする連中もいるけども、大きな物の流れを円滑に進めることが流通業全体の役割だと。

 また、少しだけですが、物の流れと裏腹に資金の話が出てきます。
 商人が両替商に金・銀を預けて振り出してもらう手形の話です。
 幸は、紙が金・銀の代わりになることを不思議に思いますが、番頭との会話の中で、店の信用がこの紙片の価値を担保していることを知るに至ります。
 幸は、その信用に影響を与えることのひとつが旦那の素行であり、店の旦那が廓屋に通い詰めていることが町中の評判になることで、手形の信用が下がることも学びます。

 久しぶりに小説を読みましたが、人情と経済事情が混じった物語も面白いものですね。
 続編もあるようなので、次を読んでみたいと思いました。

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