『社長の仕事』TKC全国会 1,800円 040803発行
バランス・スコアカードの紹介本。巻末に7社の戦略マップとバランス・スコアカードの事例が掲載されていて、イメージをつかみやすくて、便利。
【概要】
バランス・スコア・カード(以下、BSC)の本を何冊か通読したことがあるが、まるっきりイメージをつかめなかった。
本書では、比較的わかりやすく書かれていた。やはり、中小企業の社長さん、親父さん向けに書かれた本だからだろうか。
バランス・スコアカード経営の5原則
原則1:戦略を、現場で実行可能な言葉に翻訳する。(暗黙知の表出化)
原則2:戦略に向かって、組織全体を方向付ける。(タテの因果関係)
原則3:戦略を、すべての社員の日常業務に落とし込む。(ヨコの因果関係)
原則4:原則を、継続的な業績管理プロセスの中に組み込む。(形式知の統合化)
原則5:経営トップのリーダーシップにより、変革を促す。(形式知の内面化)
Balanced Scorecard Collaborative Homepage
Principle1:Translate the Strategy Operational Terms.
Align the Organization of the Strategy.
Make Strategy Everyone's Everyday job.
Make Strategy a Continual Process.
Mobilize Change through Executive Leadership.
【SOX法と似ている】
この原則を眺めていて気づいたのだが、J-SOX法の導入と似ているなと。
暗黙知に近い業務プロセスを文書化し、その運用結果を上司に、経営者に報告する。
全員で考える土壌ができたところに、経営者が報告に基づいて改善命令を下す。
もともとは、従前の経営戦略が会社全体に浸透せず、社員の意識に上らず、モチベーション向上にもつながらなかったという反省から、バランス・スコア・カードなるものが登場したらしい。
15年ほど前、日本の監査法人において、外国の監査法人と提携するにあたり、外国の監査マニュアルを導入していた。
現在では、一般的に内部統制監査マニュアルとしても用いられているものだが、この導入に伴い、昔ながらの「技を盗め」という文化が失われてきた。
株式公開ブームもあり、とてもじゃないが、先輩が後輩の面倒を見ている暇が無かったのに加え、監査マニュアルの導入により、技の伝授がされにくくなった。
その結果として何が起こったかというと、「考えない専門家」「規則だからダメという専門家」が増えた。
いわば、合目的性よりも合規性重視の専門家が増えた。
会計規則は法定化されていることから、会計士の立場としては、会社に規則に沿うよう指導することになる。
とは言え、どの程度沿うかについては、結局のところ、経営者、株主、債権者といった利害関係者の調整を考えながら、それぞれに利益や面子を損なわないように会計士が誘導していくことに、会計士の腕の優劣なり、クライアントとの信頼関係ががあったように思う。
しかし、合規性重視となると、官僚と同じで、規則に沿ってないからダメ!で終わりである。融通が利かないのである。
現在の監査市場では、上場企業廃止起業の監査が増えている。引き合いのある会計士は監査法人ではなく、融通の利く個人だ。
単発仕事が多いものの、監査法人並みに1千万円単位で報酬を得られる。しかも、上場廃止後の会社だから監査人としての責任・リスクも相対的に低い。
割のいい仕事とまでは言わないが、やはり、社会的にも意義があり、報酬もよい。
マニュアル重視で考えていたら、社内がガタガタの会社の監査を引き受ける時点で、マニュアルに抵触する可能性が高い。つまり、マニュアル主義の会計士では引き受けられない仕事である。
【普及は難しい】
さて、BSCの導入や普及についてだが、これは難しいだろう。というより、必要なのだろうか。
日本の中小企業では簡単な事業計画や予算を立てることすら普及していないし、何とか生きながらえている。
そのような状況において、また、環境変化が激しいと言われている現代に、BSCを導入しようと謳っているのはおかしくもある。
経営者が会社の将来を考える前に、社員に何らかを浸透させるBSCを導入させようとして、何を伝えるのだろうか。その段階で、すでに社長自身がマニュアル化してしまていると言える。
BSCは、社員が自発的に環境に適応できるようになっているとはいうものの、その社員を評価する経営者はどうなのだろうか。自分を超えて提案したり運営するような社員が出てきても適正な評価ができるのだろうか。
おそらく、できないだろう。その時点で、その会社の成長は止まる。
もっとも、そういった会社の経営者は、意外に自分の能力を知っていて、「成長あるのみ」などとは言わない。まあ、その時点で成長が止まっているのだが。
一般に言えることだが、中小企業の経営者は世間の反対を考えたほうがうまくいくように思う。
「BSC」と言われれば、「匠の技」とか「技の伝承こそが企業成長のカギ」といった反対のスローガンを掲げていただきたい。
そもそもブームに発展するきっかけ、あるいは、牽引力というのは、「現実逃避」「もっと簡単にうまくいく方法がないかなぁ」という気持ちであることが多い。
勝間和代のブームだって、彼女のツールが本の中で公開されたことでブームに火がついた。失礼ながら、彼女の容姿や業務実績に注目されているわけではない。女性の大手外資系コンサルタントは他にも大勢いるのだから。
自分もこれがあればミリオネラーまでいかなくても、軽く年収が2千万円、3千万円いくだろうという夢を描かせたのだ。
そのとおりになるなら、日本人はもっと英語ペラペラで、モデルのような均整の取れた体つきになっているだろう。その手のツールは山ほど出ている。
ブームになったキーワードを書名の中に見かけると、巷の中小企業の親父さんの方が、よほど冷静に自分の能力を把握し、慎重に行動しているようにも見えるのが不思議だ。
【おわりに】
というわけで、この本からは、マニュアル主義時代は続いているなぁという感想を得た。
ただ、巻末の具体的な戦略マップやBSCに出てくるキーワードは、物事を考えるきっかけとしては有効だ。
図書館などで見ることができれば、巻末をコピーして思考のきっかけとして使うといい。
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